視界にさまざまな情報を映し出すスマートコンタクトレンズ向けに、涙で充電できる超薄型バッテリーの開発が進められています。安全かつ効率的な充電が実現すれば、スマートコンタクトレンズの実用化にまた一歩近づくのではないでしょうか。
研究・開発が進むスマートコンタクトレンズ
視界に情報を表示するAR機能をはじめ、視力矯正や眼病予防などへの応用も期待される、スマートコンタクトレンズ。AR機能を搭載したスマートコンタクトレンズについては、アメリカのMojo Visionが製品化に挑戦していましたが、2023年1月に開発を断念し、事業転換を行ったことを、メタバースニュースでもお伝えしました。
世界で研究・開発が進められているスマートコンタクトレンズですが、超薄型のディスプレイやアイトラッキング、そして人体に安全で、しかも超小型のバッテリーの作製などが、技術面での大きな課題となっています。
NTUシンガポールによる研究が超薄型バッテリーを発明
従来のスマートコンタクトレンズ用のバッテリーには、金属ワイヤーや重金属であるリチウムイオンが用いられており、人体に安全とは言い切れないものでした。ちなみに、Mojo Visionのスマートコンタクトレンズは、医療グレードの固形マイクロ電池を採用していました。
バッテリー関連の課題解決のために、NTUシンガポールの研究チームが発明したのは、人間の角膜とほぼ同じ薄さの超薄型バッテリーです。薄さ0.5ミリのバッテリーは、グルコースオキシダーゼを主成分とするコーティングが施されており、ナトリウムイオンと反応することで、電気が発生します。重金属を使わない、安全性の高いバッテリーだといえるでしょう。
涙を使って安全に充電できる?
ナトリウムイオンは、人の涙にも含まれる成分です。NTUシンガポール研究チームは、人口眼球と疑似涙液を用いた実験を行い、レンズからスマートフォンへのデータ送信に、じゅうぶんな電力が得られることを確認しました。また、涙による充電も可能で、12時間の装着サイクルごとに、バッテリー寿命は1時間延びたといいます。
外部給電にも対応しており、蓄電・放電は200回ほどできることがわかっています。一般的なリチウムイオンバッテリーは、300~500回が寿命だといわれているのでやや劣りますが、安全性や薄さという課題をクリアしたバッテリーという点では、スマートコンタクトレンズの実用化に大いに貢献しているといえるでしょう。
実用化はいつ?続報もチェック!
今回ご紹介した超薄型バッテリーは、学術雑誌「Nano Energy」に査読付き論文として掲載され、特許出願と製品開発も始まっています。今後、基本部品の開発が進めば、本格的な実用化の時期も見えてくるでしょう。
私たちの未来を変える可能性の高いスマートコンタクトレンズ。今後の情報にも注目したいですね。