VR映像もさまざまな映画祭で評価をされるようになってきていますが、今回ご紹介するのは第78回ベネツィア国際映画祭で最優秀VRストーリー賞を獲得した作品です。
2021年に制作された「END OF NIGHT」の魅力について知り、ぜひ作品を視聴してみてください。
「END OF NIGHT」とは
「END OF NIGHT」はデンマーク・フランスで制作されたおよそ50分のVR動画です。Viveportで視聴・体験することができます。
物語は主人公の老人・ヨーゼフと体験者が、手漕ぎボートに乗るシーンから始まります。ヨーゼフは体験者に昔話をしながら、ボートで過去へ旅立ちます。第二次世界大戦中、ナチス占領下にあったデンマークから安全な地であるスウェーデンに向かうボートに乗りながら、ヨーゼフが逃亡した夜の回想を体験するという内容です。
この物語は、1943年に実際にあった出来事をベースに作られています。ナチス支配下にあったデンマークでは、海路でユダヤ人をスウェーデンに移す活動が行われていました。このおかげでデンマークで暮らしていたおよそ8000人のユダヤ人の多くは助かりましたが、数百人のデンマーク系ユダヤ人はドイツ軍につかまり、移送されてしまいます。
監督は作品について、「この作品は自身の家族や故郷であったできごとをベースにしています。この物語は過去に、遠くの国で起こった話ではなく、どの時代にも起こりうることであり、現在でも起こっているのです」と語ります。
ポイントは魅力的な演出
50分というVR動画にしては長編の物語であるものの、体験者はその長さをあまり感じません。その秘密は演出にあるといえます。
作品は主人公の記憶を手漕ぎボートでたどっていくという内容です。遊園地のアトラクションのように、進行役と乗り物があることで、体験者は作品のなかにスムーズに入り込むことができます。また、ヨーゼフが見る場所を案内しているので、物語の進行にしっかりと目を向けることが可能です。
ヨーゼフはなぜ手漕ぎボートを漕いでいるか、そして手漕ぎボートはどこへ行きつくのか。始めから終わりまで目が離せず、完成度の高さに満足感を得られるのではないでしょうか。
映像技術にも注目
この作品は記憶をたどるという設定なので、作品全体が荒い白黒映像になっており、フォトグラメトリーとボリュメトリック技術の使い分けで撮影されています。全体の映像はフォトグラメトリーの荒めでおぼろげな演出で、記憶のなかに入り込み過去を見る、という設定にぴったりです。
一方で登場人物には、ボリュメトリック技術を使用した撮影がなされています。登場人物によって顔や表情がはっきりと描かれている人、そうでない人がおり、その違和感が物語の暗い部分や記憶のあいまいさを表現しているのもポイントだといえるでしょう。
素晴らしいストーリーのVRで没入体験を
事実ベースの物語の記憶をたどるという演出で繰り広げる作品は、VR技術を駆使すると同時に高い完成度で、体験者を魅了します。過去の出来事をリアルに伝えられるVRは、時代を超えさまざまな歴史を私たちによりわかりやすく伝えるツールとして、今後も重宝されていくでしょう。さまざまなVR作品の登場に、今後も期待したいですね。
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