世界のさまざまな国がVR映像の制作に力を入れていますが、なかでも台湾が制作するVR映像に、多くの国々が注目しています。2021年のヴェネツィア国際映画祭VR部門では、37作品中なんと7作品が、台湾で制作されたものでした。
今回はそんな台湾が制作した、環境破壊や輪廻転生をテーマにしたVRアニメーションをご紹介します。
「Samsara」とは
「Samsara」は2021年制作のVR作品で、およそ21分のアニメーションです。物語は近未来に、人類により地球環境が破壊され、人々は宇宙に新たな居場所を見つけに行く、というところからスタートします。
人類は何年も宇宙空間をさまよい、新たな居場所を見つけます。それは新たな惑星ではなく、異なる時間軸にある地球でした。この作品は過去に私たちが行ってきた環境へのさまざまな問題を振り返り、近い未来に起こりそうなことを予知する内容となっています。
映像の魅力やポイント
「Samsara」はフルCGで制作されており、リアルな映像が物語に、より深く入り込ませてくれます。静かに始まる物語は、衝撃的なシーンを次々と移動するように進行され、熱帯雨林の破壊や象牙の密漁、棍棒を使ったアザラシ狩りなどの恐ろしい映像が目に入ります。
内容は自然破壊だけでなく、強制収容所や核爆発、自爆テロなどにも及び、我々人類が過去にどのような破壊行為や過ちを犯してきたのかを目の当たりにします。残酷なシーンの連続は、お子さまだけでなく大人にとっても辛い体験となるかもしれませんので、視聴には注意が必要です。
物語は個々では終わらず、人々はこうして破壊した地球を捨て、生きるための新たな場所を見つけようと旅に出ます。結局は別の生命体として、元の地球に住み続けようという選択に至るのですが、ここが繰り返される私たちの過ち、つまり「輪廻転生」を思わせる内容となっているといえるでしょう。
また、映像のなかでは体験者の手がさまざまな形に変化します。赤ちゃんの手、血みどろの手、傷だらけの手、火傷した手…。手はVRのなかで自由に動かすことができるものの、何かに触れたりすることはできません。
この手の変化と物語が、どのようにつながっているのか、変化する手からどういった学びや感情を得るのかは、体験者に委ねられます。
時代はストーリーリビングへ
「Samsara」を制作した監督はあるインタビューで、ストーリーテリングからストーリーリビングの時代へ変化していく、と言うことを語っています。ストーリーテリングとは、作者が一方的に体験者に物語を伝えるものです。一方のストーリーリビングは、物語の枠組みのみを提示し、そのなかで体験者が自身の物語を生きるものだといえます。
従来の小説や映画などは、一方向感の強い「ストーリーテリング」だといえるでしょう。しかしVRは自身の視点で自由に物語を見ることができる、まさに与えられた枠組みのなかでそれぞれが物語を生み出す「ストーリーリビング」型です。
ストーリーリビングはVR映像だけでなく、今後さまざまなメディアにも起こりうるものです。1人ひとりの感性がオリジナルの学びを引き起こすストーリーリビングに、VRが大いに貢献することは間違いないでしょう。
今後もVRの進歩、そして新たなストーリーリビングの時代に期待したいですね!