2014年にナイジェリアで起こったテロ事件。世界中に衝撃を与えた痛ましい事件から5年経った2019年、この事件に関するVR映画が制作されました。
今回は、「Daughters of Chibok(邦題:チボクの娘たち)」の内容や、VRとジャーナリズムの関連性について、ご紹介します。
「Daughters of Chibok」とは
「Daughters of Chibok」は2019年、ナイジェリアで制作されたおよそ11分の動画です。こちらのVR作品はVR Squareにて視聴可能です。
2014年4月14日、ナイジェリア北東部にあるチボクという小さな町で、女学校の女子学生276名がテロ組織によって誘拐されました。事件当初、世界的なニュースとなったこの事件は、ナイジェリア政府とテロ組織とのあいだの交渉により、最終的には107人が解放。
現在はニュースとして取り上げられる機会が大幅に減少していますが、未だ112名の女子学生は行方不明のままなのです。
客観的には事件が風化しつつあった5年後の2019年にも、未だ家族や町の人々の悲しみは続いていました。そんな様子を自身の目で知ることに大いに貢献するのが、「Daughters of Chibok」です。
作品のなかでは、チボクに住む女性、ヤナが街の人々のもとへ案内してくれます。貧しくものどかな町であるチボクでは、女性たちは農作業をしながら子育てをしており、大変ながらも幸せで平和な日々を送っています。
カメラの周りを笑顔で走り回る子供たちを見ていると、珍しいVR機材を子どもたちが受け入れるまで、長い時間をかけて打ち解けていった監督の努力や、子どもたちとの信頼関係がうかがえます。
作品に込められたメッセージ
のどかな町のシーンでは想像もつかない、チボクの人たちの悲しみや痛みは、作品の途中から垣間見えてきます。チボクの農作業の労働の中心は女性たちですが、10年以上にわたるテロ組織の活動が、農業や商業活動に大いに影響を与えており、貧困に苦しんでいるのです。
そんななか起こった2014年の誘拐事件。実は案内役の女性、ヤナの娘も誘拐事件の被害者、しかも未だ行方不明となっている112名のうちの1人です。しかしヤナは家族のために働き、残るきょうだいたちの育児をこなします。
娘の居場所がなくならないよう、いつ帰ってきてもよいように衣服を洗ったり、部屋を片付けたりする様子には、胸をしめつけられるような感覚を覚えるのではないでしょうか。
VRがジャーナリズムに与える影響は
VRはエンタメとして楽しむことはもちろん、歴史的な事実を記録として残すためにも大いに貢献します。また、これまでの報道とはやや異なる事実の伝え方を、VRは実現するのではないかと考えられています。
今回ご紹介した作品も、これまでの報道のように編集やナレーションがなされています。しかし、映像が360度になり、そのなかには事件の当事者しかいない状況に体験者が飛び込むという点だけでも、今までの報道とは手法が大きく異なることがわかるでしょう。
VRによる報道は、まるで体験者が報道陣となり、目の前にいる方から話を聞いたり、事件の現場を訪れたりするような感覚を味わうことができます。客観的に画面の向こうで起こった内容を見聞きするよりも、よりリアルに事件や事実を受け入れることのできる状況のなかで、体験者は何を感じ、どう行動していくか、その可能性の幅は大いに広がることが予想されます。
VRで事実を記録として残そう
VRは事実をよりクリアな記録として残す媒体として、今後も活用されていくでしょう。VRを通してみた映像で、感じることや学びの多い時間を過ごせるとよいですね。
今回ご紹介した「Daughters of Chibok」は、アフリカ発のVR作品のなかで、初めて第76回ベネツィア映画祭最優秀VR Stori賞を受賞しました。また、体験者に向けて、娘の帰りを待つチボクの方々の生活が少しでも豊かになるような支援も募っています。興味のある方は、ぜひ視聴してみてください。