思うように外出できないコロナ禍には、「おうち時間」をよりよいものにするためのさまざまなアイテムやアイデア、媒体が登場しました。VRも注目を集め、自宅にいながら国内・海外のスポットに遊びに行った感覚を味わえる「VR旅行」を体験した方も多かったのではないでしょうか。
VR旅行は魅力的な体験を提供してくれるだけでなく、高齢者の方に意外な効果をもたらしたといいます。今回は、東大最先端技研が発表した試験結果から、VR旅行の高齢者への高価を見ていきましょう。
高齢者施設で「VR旅行プログラム」を提供
東京大学先端科学技術研究センター(東大最先端技研)の、身体情報学分野研究グループは、高齢者施設居住者に「VR旅行プログラム」を提供し、ランダムに比較試験を実施しました。
実験に参加したのは、高齢者施設居住者24名。VR旅行を体験したグループと、体験せず普段通りの生活を送るグループに分け、実験から離脱しなかった20名を対象に、無作為比較対象試験を実施しました。
実験結果!体験者に見られた改善とは
実験前には、「視空間能力向上、頸椎可動域改善に、ヘッドマウントディスプレイを使用したVR旅行体験が有用なのではないか」という仮説を立てていた東大最先端技研。発表された試験結果によると、VR旅行体験者は「視空間能力」と「頸椎可動域」に、実際に改善が見られたそうです。
視空間能力は単に見る力だけでなく、眼から入った情報を能が認識する力を指します。この力は、加齢に伴い機能の低下が著しく、視空間認知機能が低下すると、軽度認知障害や認知症につながる可能性もあるといわれています。VR旅行によりこの力が改善すれば、加齢により現われる認知症などの症状を軽減・改善したり、予防したりすることができるのではないでしょうか。
研究グループメンバーがコメントを発表
VR旅行プログラムは週3回、1日30分ペースで4週間実施。その結果、体験による視覚的探索で前述の2つの改善効果が実証されました。この結果に関して、研究グループは「視空間能力の向上は、転倒予防のトレーニングにもつながる。今後、高齢者施設において有用なツールになり得る」とコメントを発表しています。
研究グループに所属する宮﨑敦子特任研究員、登嶋健太学術専門職員、檜山敦特任教授もそれぞれコメントを残しており、VRが新たなコミュニケーションツールに留まらず、温かな福祉機器となるよう発展させ、多くの高齢者に美しい景色や文化に触れる機会を提供したいといった思いを語りました。
幅広い世代に効果!VRをさらに活用しよう
新型コロナウイルスの5類移行により、リアルな旅行を楽しむ方も増えています。しかし、高齢者の方をはじめ、世の中が変化しても外出が困難な状態が続くという方も少なくありません。
VRの高い学習効果はこれまでも実証されてきましたが、今回の実験で、また新たなよい効果があることがわかりました。VRを活用し、なかなか外出ができない方もよりよい体験や効果を得られる機会が増えることに、期待したいですね。