幅広い業種でのXR活用が見られる昨今、交通事業でも次々と新たな取り組みが行われています。XR技術の導入は、電車やバスを単なる「移動手段」へと進化させるだけなのでしょうか。
今回は、交通各社のXRへの取り組みについて、ご紹介します。
AR・VRを活用した展示
2023年5月31日、JR東日本グループは、JR山手線・高輪ゲートウェイ駅周辺一体を「TAKANAWA GATEWAY CITY」と命名。「100年先の心豊かなくらしのための実験場」にする構想を発表しました。
1872年に敷設された高輪築堤の遺構展示を起点とし、およそ150年にわたる鉄道事業の軌跡を発信する施設を設置。2027年度の公開を目標に、高輪築堤遺構の展示にAR/VR技術を活用し、バーチャル空間で遺構の上を車両が走る様子を再現するとのことです。なお、施設周辺には、オフィスや商業施設の入った複合ビルや高層マンションの建設も予定しており、近未来的な街の構築を図りながらも、歴史を知る空間を確保します。
「イマーシブなメディア空間」の実現
さらにJR東日本は、「Beyond Stations 構想」というものも掲げています。これは、鉄道駅を「イマーシブなメディア空間」に変貌させる計画で、上野駅・秋葉原駅・新宿駅に大型曲面サイネージやXR体験のできる商業スペースを設けるという事業にも取り組みます。
主要な駅を中心にXRを多く取り入れた空間を実現する構想は、成功すれば徐々にエリアを拡大し、JR東日本の管轄駅はもちろん、全国のさまざまな鉄道の駅でも同様の体験が提供されることが期待できるでしょう。
XRを活用した観光バスも
JR西日本は、鉄道ではなくバスに注目。「観光周遊型XRバス」の導入を発表しました。このバスはJR福井県を拠点に、県内の主要観光地を結ぶ新規路線を運行予定で、開始目標は、2024年夏です。
ARコンテンツを活用し、車窓から見える現実の風景に仮想映像を重ね合わせたり、観光地にまつわるVR演出をしたりして、新たな観光資源を開拓します。JR西日本は、株式会社JR西日本イノベーションズや福井銀行グループなどと共同出資で、バス車内に設置するXR設備の開発・保有のための特別目的会社を設立することも、明らかにしています。
日常のなかにXRを
メタバースやAR、VRを「ゲームが好きな人のためのもの」「ビジネスシーンで使うもの」と、かけ離れた存在として捉える方は、まだまだ多くいます。駅周辺やバスなどへのXR導入という新たな試みで、XRが日常のなかに溶け込む自然なものとして認知されれば、その可能性はより広がっていくのではないでしょうか。
JR東日本・西日本の構想の今後にも、ぜひ注目していきましょう。