英国の原子力公社は、核融合型発電所の新たな開発事業に「産業メタバース」の活用を発表しました。新たな試みには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
今回は、英国原子力公社の取り組みについてご紹介します。
英国原子力公社の発表内容は
2023年6月28日、英国原子力公社は、産業メタバースを用いた核融合型発電所の開発を進めると発表しました。今回の取り組みには、ケンブリッジ大学やIntel、Dell Technologiesが参画し、AIやスーパーコンピューターを用い、現実空間ではできない検証開発などを行う予定です。
デジタルツイン導入で実用化へ
産業メタバースの活用は、英国原子力公社が計画した「Spherical Tokamak for Energy Production」というプロジェクトの一環です。英国原子力公社は、2040年代に「核融合発電」の実用化を目指していますが、開発・検証には大量のシミュレーション・モデリングが欠かせません。
そこで本プロジェクトでは、プロトタイプ発電所のエンジニアリング設計に、高度コンピューティング演算、AIの予測技術などの「産業メタバース」を組み合わせた、デジタルツイン技術を導入。2040年の実用化に向けた研究・開発に活用します。
「核融合」で環境配慮?
「核」と聞くとマイナスなイメージを持つ方も多いかもしれませんが、「核融合発電」は、重水素と三重水素をぶつけたときに起こる核融合反応で、発生するエネルギーを発電に利用するものです。エネルギー源の重水素・三重水素はどちらも海水から抽出でき、稼働時に温室効果ガスを排出しないなど、環境に配慮した発電を実現できます。
核融合発電では、低レベル放射性廃棄物が発生しますが、これもおよそ100年で、一般的な放射レベルに戻ると予想されています。「核」と「原子力」は同じだと思われがちですが、原子力発電で発生する高レベル放射能廃棄物は、処理するのに約10万年かかるといわれているので、2つの発電方法は大きく異なり、また核融合発電が高い安全性を持っていることがわかるのではないでしょうか。
安全性の高い施設の完成なるか
今回の取り組みについて英国原子力公社は、「デジタルツイン技術により、仮想世界で強固な設計を作成し、生態系への対応や費用対効果が検証できる。期限までのプロジェクト達成をサポートできるものだ」とコメントしています。環境や安全性に配慮した、「核融合発電」という新たな発電システムの実現には、まだまだ時間がかかりそうですが、今後の研究は、世界の原子力政策にさまざまな影響を与えるのではないでしょうか。