伝統的な映画祭の1つ、ベネチア国際映画祭。近年はVRをはじめとした優秀なXR作品の発掘にも注力していますが、そのXR部門に、日本人監督の2作品がノミネートされました。
今回は、ノミネート作品の概要や見どころを、解説します。
XR部門にノミネートされた2作品
ベネチア国際映画祭は、世界三大映画祭の1つで、世界最古の歴史も持っています。開催時期は毎年8月末から9月初旬です。そんなベネチア国際映画祭のエクステンデッドリアリティ(XR)部門「Venice Immersive」は、2017年に新たに登場した部門で、2023年で7回目。今回ノミネートされた作品の監督を務めたのは、伊東ケイスケ氏と、大宮エリー氏です。
伊東ケイスケ氏は、4年連続のノミネート。大宮エリー氏は、VR映画で初監督を務め、ノミネートされました。
日本の伝統を生かしたVR映画「Sen」
伊東ケイスケ氏が監督を務めた「Sen」は、茶道を通じて、生命と宇宙のつながりを体験する作品です。作中では、「千利休の所持していた茶碗『万代屋黒』をモデルにした触覚デバイス」を用い、複数人が同時に茶道を体験します。約15分間のアニメーションVRで、お茶の精霊「Sen」を通し、自分と世界の関わりを知る、という内容です。
伊東ケイスケ氏は同作品について、茶道をベースに、自己を深く見つめる体験を作りたいと考えていたとコメント。「Sen」の主人公は体験者自身であり、深い闇のなかで自身の「生」を見つめてほしいと、作品への思いを語っています。
自伝的体験型VR「周波数」
大宮エリー氏による「周波数」は、アーティスト・大宮エリーの自伝的なVR作品です。25分のアニメーションVRで、主人公・アンに手渡されたペンで名前を書くことで物語が始まります。アンが画家になるまでが描かれた物語のなかで、体験者は世界に存在するあらゆる「周波数」について知り、これがきっかけで世界の見え方が変わることに気がつく、という内容です。
大宮エリー氏は、コロナ禍や戦争などによる心への影響について指摘し、作品を通して「あなたはこの宇宙でひとつの大切な役割があり、あなたがいること自体、存在自体が、愛なんだ、ということを伝えたい」とコメント。また、主人公・アンとともに世界の見え方が変わっていく様子を体験した最後には、「多様性の素晴らしさを一瞬で体感することができる」仕掛けもあると、作品の魅力を語っています。
名作を体験できる日が待ち遠しい!
仮想空間でしかできない体験が終わったとき、私たちの心にはどのような変化が起こるのでしょうか。世界の大規模な映画祭にノミネートされた2作品を体験できる日を、今から楽しみに待ちましょう。